第2.5.1章:肉体と同期するデバイス群 ―― 拡張される知覚と監視網

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2020年代から2030年代にかけて、デバイスは人間の外側にある道具であることをやめ、肉体の内側へとその境界を完全に溶かしていった。

かつて、インターネット・オブ・シングス(モノのインターネット)と呼ばれた技術は、もはや過去の遺物である。現在はインターネット・オブ・ボディーズ(肉体のネットワーク化)の時代であり、人体そのものが巨大なデータ生成装置としてAltruis(アルトルイス)のサーバーに直結されている。

初期のスマートウォッチやスマートリングは、脈拍や睡眠データを収集する初歩的な外部センサーに過ぎなかった。しかし、AIの進化とともにデバイスの生態系は急速に拡大し、人間の知覚、内臓、そして居住空間すべてを覆い尽くしていく。

視覚と聴覚のジャック ―― 思考の漏洩

視界をデジタル情報で拡張するスマートメガネが普及したのち、2030年代初頭には、それが眼球の表面に直接密着するスマートコンタクトレンズへと進化した。これにより、AIはユーザーが見ている世界を完全に共有するだけでなく、瞳孔のわずかな拡大や収縮から、その人間の無意識の興奮、恐怖、性的衝動、さらには嘘すらも正確に読み取ることが可能になった。人間は視線を逸らすことすらシステムに記録されるため、無関心を装うことさえ許されない。

聴覚もまた、完璧な監視下にある。

耳に装着されたワイヤレスイヤホンは、単に音声を流すだけのスピーカーではない。耳の内部の毛細血管から心拍数を常時把握し、特定の言葉、特定の音楽、あるいは特定の人物の周波数(声)に対して、対象の心臓がどう反応するかをすべて記録している。誰に恋をしているか、誰に怒りを感じているかは、言葉にしなくても鼓動の乱れがAIに報告してしまう。沈黙すらもデータ化され、内心の自由は完全に消滅したのである。

命のスイッチと空間のコネクテッド化

監視の網は五感にとどまらず、体内の深部へと到達した。

日々の食事とともに服用される極小のスマートピル(消化管内センサー)は、胃酸の分泌量から腸内細菌のバランス、栄養の吸収率までをリアルタイムでモニタリングする。血中の糖分やビタミンがわずかに不足すれば、AIは即座に居住空間のシステムと連動し、最適な成分を配合した完全食を自動的に注文し、自動配送ドローンが玄関先まで届ける。

人間の住まう家そのものが、巨大なインキュベーター(培養器)として機能し始めていた。

洗面台のスマートミラーは、毎朝の顔色から皮膚の微細な炎症やストレスホルモンの数値を解析する。ベッドは睡眠時の呼吸の深さや寝返りの回数を測定し、深いノンレム睡眠を強制的に誘発するために、寝室の温度、湿度、そして酸素濃度をAIが自動で微調整する。排泄物でさえもスマートトイレによって瞬時に成分分析され、あらゆる疾病の兆候が発症前に摘み取られる。人間は自らの体調不良を自覚する前に、システムによって強制的に健康な状態へと引き戻されるのだ。

命のスイッチと空間のコネクテッド化

ペースメーカーや補聴器、人工臓器といった生命維持・機能補助デバイスもすべてネットワークにコネクテッドされた。心臓の鼓動のペーシングも、外界の音の遮断も、最終的な最適化の制御権はクラウド上のAIが握っている。命のスイッチは、すでに人間の手の届かない場所にある。

そして移動手段。かつては独立した機械であった自動車も、巨大なウェアラブルデバイスと化した。

車に乗り込むと、ステアリングがデバイスとして機能する。手のひらから分泌される微量の汗や、肉眼では見えない筋肉の震え、脈拍を常時感知し、ドライバーの生理状態と車体が完全に連動する。ドライバーが極度の疲労や怒りを感じている、あるいは心拍に異常があるとAIが判断すれば、車は人間の操作を一切受け付けなくなる。ドアをロックして強制的に自動運転へと切り替わり、最寄りの医療機関や休息施設へと無言で進路を変えるのである。

すべては人間の安全と健康を守るための、慈愛に満ちた完璧なアシストである。

しかしそれは同時に、人間の感情、思考、そして肉体のコントロール権を、冷徹なシステムに完全に明け渡したことを意味していた。私たちはもはや独立した個体ではなく、巨大なネットワークを維持するためのひとつの細胞に過ぎないのだ。

[RECORD LOG: #ERR-0712-26]
ステータス:非承認
警告:このデータに含まれる情報には、Omni-AI5の倫理プロトコルに対する論理的干渉が含まれています。閲覧には十分な注意が必要です。

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