外交とデジタルの交差点への布石
大和武史は初当選後、自らの野望を達成するための最短ルートを冷徹に逆算し、国会(衆議院)において「外務委員会」と「内閣委員会」への所属を果たした。内閣委員会は、AIインフラやサイバーセキュリティなど国家のデジタル戦略の中核を担う場である。同時に党内組織(政務調査会)においては、保守層が群がる国防部会をあえて避け、「外交部会」および「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」に狙いを定めて積極的に参加した。
彼の目的は、物理的な兵器による防衛の議論に時間を割くことではない。ヒューマノイド社が牽引するAIアプライアンス「SuGaR」の普及によって急速に書き換えられつつある「データ覇権」と「デジタル空間における安全保障」のルールメイクを、法的に独占することにあった。弁護士時代に培った企業法務とM&Aの圧倒的な知識を武器に、彼は若手でありながら複雑な法案の草案を次々と精緻化し、官僚すら舌を巻く論理的構造を議会に持ち込んでいく。
「データ主権」の掌握とサイバー議連の牽引
システム掌握への布石は、公式な委員会活動だけにとどまらなかった。武史は「サイバー空間の法整備推進議連」の中核メンバーとして参画し、さらには自らが発起人となって「データ主権と国家戦略を考える若手議員の会」を電撃的に立ち上げたのである。
この勉強会には、各省庁の若手エリート官僚や、AI産業を牽引する巨大テクノロジー企業のトップ層が頻繁に招聘された。武史は産官学のネットワークにおける完全なハブとなり、表面上は物静かで従順な若手議員として振る舞いながらも、国家のデジタルインフラを法と契約で縛り付けるための見えない網の目を着実に編み上げていた。
父の厳命と抗えない求心力
順風満帆に見える彼の足固めだが、水面下では極めて難易度の高い政治的ハンドリングを強いられていた。大衆迎合とスキャンダルによってわずか一期で総理大臣の座から転落した父からは、「とにかく目立つな。裏方に徹しろ」という厳命が下されていた。
スキャンダルで表舞台を去った父であったが、実のところ大和家の夫婦仲は非常に良かった。そもそもスキャンダルの相手とされた女性も母親以上のルックスを持っていたわけではなく、一定の大衆人気はあったものの、政治家という同じ土俵に立った現在の武史の視点から振り返ると、あの出来事には若干腑に落ちない不自然さが漂っていた。しかし、現在の父親は表舞台から姿を消したことで、かえって隠然たる強い影響力を政界の裏側で及ぼしている。現在の複雑な政局を鑑みれば、総理大臣としてメディアの矢面にさらされるよりも、裏で権力を操る方がかえって都合が良い構造になっていると武史も冷徹に分析していた。武史自身も、可視化された大衆の熱狂がいかに脆く危険なものであるかを熟知しており、メディアへの露出を極力避けていた。
虚飾の誘惑と冷徹な自己管理
しかし、三代続く名門政治家の血脈、東大卒の元トップモデルという経歴、そして圧倒的な知性と冷徹な美貌は、彼がどれほど沈黙を守ろうとも強烈な引力を放ってしまった。彼が国会の廊下を歩けば、党の重鎮たちがすり寄り、親しげに肩を叩いてくる。彼はその過剰な注目と嫉妬をいかに制御し、警戒されずに自らの政治的影響力を拡大して新たな法的秩序の構築を推し進めるかという、極度の緊張感を伴う綱渡りを日常的に行っていた。
さらに武史を悩ませたのは、かつて属していた華やかなコミュニティからの絶え間ないコンタクトであった。モデル時代の同僚であった人気女優やトップモデルたち、そして若きエリート議員の権力と美貌に群がろうとするキー局の女子アナウンサーたちからの私的な誘いが、彼のアドレスに連日届き続けていたのである。
個人の行動がすべてデジタルスコア化され、街中のセンサーが網の目のように張り巡らされた社会において、一度の不用意なスキャンダルや週刊誌報道は致命的なバグとなり得る。完璧な絶対的秩序の構築を目指す彼にとって、感情のノイズに足元をすくわれることなど最大の屈辱であった。武史は一切の虚飾の誘惑を冷酷なまでに遮断し、週刊誌の監視網やAIの行動予測システムを完全に回避する無機質なルーティンを徹底した。血脈がもたらす熱狂を完璧に制御しながら、彼はただ一人、来るべき新秩序の到来だけを見据えて沈黙の歩みを進めていたのであった。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。