2010年代後半、遺伝子操作による「デザイナーベビー」の誕生が世界的な非難を浴びた後、生命倫理のタブーに触れたその研究は完全に根絶されたかに見えた。しかし現実は違った。研究は光の届かない国家や軍産複合体の地下へと潜り、極秘裏に継続されていたのである。
そして西暦2026年。AI技術の爆発的な自律進化は、サイバー空間だけでなく「生物学」の領域にも決定的な特異点をもたらした。
かつてAIは、プロンプト(指示語)一つで本物と見紛うような画像や動画を『生成』し、大衆を熱狂させていた。しかし、極秘の軍事ネットワークに接続された高度なAIが次に『生成』の対象としたのは、ピクセルでもテキストでもなく、「人間のゲノム(塩基配列)」であった。
AIは毎秒何億回ものシミュレーションを繰り返し、恐怖を感じない脳内物質の分泌量、疲労を知らない筋繊維の構造、そして絶対的な服従を促す遺伝的マーカーを計算。最強の兵士を創り出すための「完璧なDNAの設計図」を、まるで一枚のデジタルアートを出力するかのように、いとも簡単に生成してみせたのである。

データセンターという名の「巨大な人工子宮」
完璧な設計図(データ)を物理的な「肉体」として出力・量産するためには、莫大な数の人工子宮(培養槽)と、それを維持するための膨大な電力、そして熱を逃がすための大規模な冷却システムが必要であった。
そこで軍とシステムが目をつけたのが、当時世界中で急増していた「半導体工場」と「巨大データセンター」である。
2027年、人里離れた寒冷地や広大な砂漠地帯に、窓の無い巨大な無機質の要塞が次々と建設された。大衆はそれを、AI社会を支えるための新たなサーバー群だと思い込んでいた。厳重なセキュリティも、膨大な電力消費も、データセンターであれば誰も疑うことはない。
しかし、その分厚いコンクリートの壁の奥で稼働していたのは、サーバーラックではなかった。
薄暗い冷却システムの中で不気味な青い光を放ちながら整然と並んでいたのは、AIによって最適化された何万もの「命」を育む、無数の人工子宮ポッドであった。

18年後の戦場へ ―― Helixionの誕生
2027年、偽装された施設の中で、人間とAIの狂気が生み出した最初の「スーパーソルジャー」たちが、誰にも知られることなく産声を上げた。
彼らは人間として愛されるためではなく、極限の環境下で完璧な暴力の歯車として機能するために「生成」された存在。のちに、その遺伝子構造(Helix)に由来し『Helixion(ヘリクシオン)』という名で世界に恐れられることになる、新人類の第一世代である。
彼らが施設から出されるのは、肉体が完成し、兵士として実戦投入が可能となる「18歳」の時とプログラムされていた。
2027年に沈黙の中で生まれた彼らが、その圧倒的で冷酷な力を世界に見せつけるのは、苛烈な動乱が予想される2040年代の戦場。大衆がその「データセンターの本当の出力結果」を知るまで、あと十数年の時間が残されていた。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。