制度の中核をなすのは、個人の遺伝子情報に基づき生成される唯一無二のキーに、生年月日、出生地、性別などの識別情報を付加した主キーである。この複合的な識別子は、厳重なセキュリティの下、世界規模の巨大な分散型データベースで管理されている。制度導入当初こそプライバシーへの懸念も囁かれたが、テロリズムの脅威の増大と食糧配給の効率化という喫緊の課題を前に、その必要性は広く受け入れられていった。
現在では、金融機関における生体認証は完全に普及し、口座情報はこの遺伝子識別子から生成される一意のコードと不可分に結びついている。人々は生を受けるとほぼ同時に、この世界で唯一の個人コードを取得する。特筆すべきは、その際に腕に埋め込まれる、約150年の稼働寿命を持つ通信機能及び高精度GPSチップの存在である。このマイクロチップを通じて、個人は常にデータベースとリアルタイムで接続され、その存在と位置情報は常に把握される。
各個人には、15桁の基本番号が付与され、その誕生はブロックチェーン技術における最初のトランザクションとして記録される。このトランザクションは、単なる出生記録に留まらない。あたかもデジタルな家系図のように、親、兄弟姉妹、配偶者、そして子供といった血縁関係や婚姻関係が、暗号化されたデータとして連鎖的に紐付けられ、管理される。これにより、個人の属性情報だけでなく、その社会的な繋がりまでもが透明性の高い形で記録されるようになった。
結果として、全ての人類は例外なく、このグローバルな管理システムの下に置かれ、24時間365日、その行動は追跡可能となっている。逆説的に言えば、「管理されていない」人間が存在する場合、その特異性は瞬時にシステムによって検出されるため、文明社会においては隠匿することは不可能に近い。未開の地や、制度導入が遅れている一部地域を除き、完全に管理の外に置かれた人間が生存することは極めて困難な状況となっている。
この高度な管理体制を支えるのは、最先端のブロックチェーン技術を応用した、管理者不在のAI駆動型分散型データベースである。中央集権的な管理者を置かず、世界中に分散されたノードによってデータが共有・検証されるため、単一の主体による不正な操作や情報漏洩のリスクは大幅に低減されている。AIは、膨大なデータの解析を通じてシステムの最適化を図り、異常な活動や潜在的な脅威を早期に検知する役割を担っている。
この「ワールド・マイナンバー」制度は、当初の目的であった飢餓撲滅とテロリズムの抑制において一定の成果を上げている。しかしその一方で、プライバシーの侵害、自由の制限、そしてシステムへの過度な依存といった新たな課題も生み出している。人類は、この利便性と監視という二律背反の状況の中で、新たな倫理的、社会的な課題に直面していると言えるだろう。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。