ブロックチェーン


年代記・不可視の鎖

ブロックチェーンとは、天啓の如き透明性を湛える「啓示されたる記録の碑文」なり。今や、世界の隅々にまで張り巡らされたる無数の端末が、Peer to Peerの奥義を極め、並列処理の奔流をもって膨大な情報を奔騰させる。

特に、未来世紀の然る年に公布されたる「反逆者の根絶と国民総背番号の聖典」(アンチテロリスト・ベーシックナンバー・コデックス)は、ブロックチェーンを人類文明にとって不可欠の聖具へと昇華させた。

現今、あらゆる取引は、この不朽のブロックチェーン台帳に刻印される宿命を負う。この記録の源流を辿れば、太古の仮想通貨の黎明期に遡り、金融という聖域を中心に発展を遂げたことが明らかとなる。遠い過去の然る年、東の島国にて、不動産取引への応用という革新が起こり、旧き時代の遺物たる登記簿謄本は、その役目を終焉を迎えた。

この東の地の試みが成功裡に終わるや、西の大国、赤龍の帝国は、広大な国土の使用権管理にこの神聖なる技術を応用することを決断した。瞬く間に、巨大なるブロックチェーンを基盤とする不動産台帳が構築され、その広大さは天を覆うばかりであった。

当時、自由の灯を掲げる連邦と双璧をなすITの巨塔たりし赤龍の帝国は、ブロックチェーンの奥義を応用した記録台帳を、森羅万象に適用せんとした。不動産に関する台帳の運用が驚異的な成果を上げたため、次にその目は、人の根源を記す戸籍へと向けられた。過去の然る日、帝国の最高意思決定機関にて、長きに渡る人口抑制策の終焉が宣告されると、これまで存在を秘匿されてきた「影の子ら」(シャドウチルドレン)が、戸籍の光の中に登録されることとなり、地方政府は長き混乱の時代を迎えた。しかし、ブロックチェーン技術を駆使した戸籍の運用は、驚くべき低コストであり、汚職による記録の改竄という悪夢を断ち切った。故に、民衆の信頼は篤く、その普及に時間を要することはなかった。

その後、この天恵の技術は、東の島国へと逆流し、公的機関の聖なる記録は、ブロックチェーンを基盤とする分散型台帳の上に築かれることとなった。当時すでに、自由主義国家を遥かに凌駕する統制の網を nation-state 全土に張り巡らせていた東の島国は、既に導入されていた万民識別番号(ユニバーサルID)を至高の鍵とし、巨大なる全知全能のデータベースを構築した。

そして、世界の先進国の中で唯一、人口増加という奇跡を享受していた自由の灯を掲げる連邦も、ついにこの不可視の鎖の導入を決断し、全世界の国々が、この分散型台帳によって国民を管理する時代を迎えたのである。

これは、透明なる記録の碑文が、人々の生活、そして国家のあり方を根底から変革するまでの、長きに渡る年代記である。未来の歴史家たちは、この記録を紐解き、不可視の鎖が人類社会に何をもたらしたのか、深く考察するであろう。

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。